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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8322号 判決 1970年9月08日

本訴原告(反訴被告) 鈴木キミノ

右訴訟代理人弁護士 中村尚彦

本訴被告(反訴原告) 鈴木敏

主文

一、反訴原告(本訴被告)が別紙目録記載の各建物につき所有権を有することを確認する。

二、本訴原告(反訴被告)の本訴請求および反訴原告(本訴被告)のその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、これを五分し、その四を本訴原告(反訴被告)のその余を本訴被告(反訴原告)の各負担とする。

事実

(略称)

以下、本訴原告(反訴被告)を原告、本訴被告(反訴原告)を被告という。

第一、当事者の求める裁判

一、原告

(一) 本訴請求につき

1、原告が別紙目録記載の各建物につき所有権を有することを確認する。

2、被告は原告に対し別紙目録記載(二)の建物(以下本件(二)の建物という。)から退去して右建物を明渡せ。

3、訴訟費用は被告の負担とする。

4、第二項につき仮執行の宣言。

(二) 反訴請求につき

1、被告の請求をいずれも棄却する。

2、反訴費用は被告の負担とする。

二、被告

(一) 本訴請求につき

1、原告の請求をいずれも棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

(二) 反訴請求につき

1、主文第一項と同旨。

2、原告は被告に対し別紙目録記載(一)の建物(以下本件(一)の建物という。)から退去して右建物を明渡せ。

3、原告は被告に対し金一〇万円を支払え。

4、反訴費用は原告の負担とする。

5、第二、三項につき仮執行の宣言。

第二当事者の主張≪省略≫

理由

一、被告が本件(一)の建物を訴外加藤某から買受けたことは当事者間に争いがなく、買受の日時は被告本人尋問の結果により昭和二八年六月頃と認める。

二、原告は昭和三八年一〇月頃被告から右建物を贈与された旨主張するので判断する。

原告本人尋問の結果(第一回)中には右主張にそう供述があるけれども、右供述は被告本人尋問の結果に照らして信用できない。また甲第一号証(登記簿謄本)によると、右建物につき昭和二九年四月二〇日受付をもって原告のため所有権保存登記が経由されていることが認められるけれども、被告本人尋問の結果によると、被告は右建物を登記簿上自己の所有名義にしておくと、自己の営業状態が悪化し負債が生じたとき右建物の所有権を失う恐れがあると考え原告の所有名義に仮装の登記手続をしたことが認められるので、右甲第一号証によって原告の右主張を認めることはできない。

ほかに原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

三、次に被告が昭和三九年一〇月三〇日頃本件(二)の建物を訴外近藤啓一から購入したことは当事者間に争いがない。

四、原告は右建物を本件(一)の建物とともに昭和四〇年三月一五日被告から贈与を受けた旨主張するので判断する。

右主張にそう原告本人尋問の結果は被告本人尋問の結果と比較して信用できず、また甲第一号証(登記簿謄本)によると、昭和四〇年三月一五日付贈与を原因として同年同月一五日原告に所有権移転登記が経由されているが、被告本人尋問の結果によると右登記手続は原告が被告に無断でしたものであると認められるので、右甲第一号証によっても原告の主張を認めることはできず、そのほかに原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

五、そうすると、本件(一)および(二)の建物はいずれも被告の所有に属するものであり、原告の所有に属するものではないと認められるので、右各建物につき原告が所有権を有することの確認を求める原告の請求は理由がなく、右各建物につき被告が所有権を有することの確認を求める被告の請求は理由がある。したがって原告が本件(二)の建物につき所有権を有することを前提として、被告に対し右建物より退去してその明渡を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

六、被告は原告に対し所有権に基づき本件(一)の建物から退去して右建物の明渡を請求するので判断する。

原告が右建物に居住していることは当事者間に争いがない。そこで原告が被告所有の右建物につき居住権を有するか否かについて考えるに、夫婦は同居し互に協力扶助する義務を負うものであるから、夫婦の一方は特段の事情のない限り他方の所有家屋につき当然に居住権を有するものと解すべきであるところ、原被告が夫婦であることは当事者間に争いがなく、かつ被告が原告に対し右建物に居住することを拒否し退去を求める特段の事情は認められないから、原告は右建物につき居住権を有するものというべきである。したがって原告の右請求は失当である。

七、次に被告の金員返還請求について判断する。

被告は土地建物の売却代金が一五〇万円である旨主張し、被告本人はその旨供述するけれども、原告本人尋問の結果によると右代金は金一四〇万円でないかとの疑いが濃厚であり、結局土地建物の売却代金が一五〇万円であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告の右請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。

八、よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦伊佐雄)

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